「姜維伯約と申します。よろしくお願いします」
 天水の戦いで、総大将からの信頼を失い行き場をなくした姜維が劉備軍にやってきて、なんとなく
空気が変わった。
 孔明はもちろんのこと、馬超やあの魏延でさえ姜維には柔らかく接している。
 そして趙雲もまた…。

 姜維は常に孔明のそばにおり、命令を忠実に守る武将。
 それゆえ、なかなか趙雲とともに戦場に出ることはない。
 ところが街亭において馬謖が山上に布陣したため孤立し、趙雲は初めて姜維とともに馬謖の救出を
命じられた。
 しかし戦況は孔明の思惑通りには進まなかった。
「馬謖軍、苦戦!」
「まさか…姜維が敗走したのでしょうか。趙将軍、すぐに向かってください」
 孔明からの命を受けた趙雲はいてもたってもいられず、姜維が向かっていた西の山道へと向かった。
「みな、無事か!」
「あっ、趙将軍!」
 趙雲が到着したときには、すでに兵卒たちが互いを支えながら自陣へ逃げている最中だった。
 虎威将軍として名を馳せている趙雲の登場に、兵卒たちはわずかながら励まされる。
 趙雲はその雑踏の中に姜維の姿を探していた。
「姜維殿はどこにいる」
 兵卒のひとりを捕まえ尋ねる。
 兵士は少し沈んだ声で答えた。
「姜将軍でしたら、我らをここに待機させ山上へと向かわれましたが…」
「なんと! では急ぎ向かう!」
 趙雲は馬を飛ばしひたすら駆けた。
 数十の魏兵をなぎ払ったが姜維の姿は見えてこない。
(まさか…捕らわれたか、殺されたのではないだろうな…っ)
 そんな趙雲の元に届いた報せは、馬謖が敗走したというもの。
 それならば、馬謖とともにあったはずの姜維も討たれた可能性がある。
 しかも敵総大将の司馬懿は馬謖を討った勢いに乗じて、本陣まで攻め落とそうとしている。
 気持ちばかりが焦る。
 その苛立ちは魏軍への怒りに代わり、趙雲は司馬懿の軍に突撃しこれを退けた。
 ようやく落ち着きを取り戻してから、馬と人の屍を縫って改めて姜維を探す。
「姜維殿! 姜維殿! おらぬか!」
「…ここに」
 弱々しい声が聞こえた。見れば大きな岩の陰から姜維が現われた。
「おう無事だったか。なぜこのような場所に…みなと逃げればよかったであろう」
「最後の最後までと思い奮戦いたしましたが…馬謖殿は敗走され、私はどうしてよいかわからずに
ここに留まっていた次第です」
「そうか…馬謖殿には残念なことであったが、そなたが無事であっただけでも丞相は安心なさるだろう」
「そうで…しょうか」
 姜維の言葉を不思議に思いながらも、趙雲は自分の馬の後ろに姜維を乗せ、自陣へと戻っていった。
 
 幕舎へ戻り、孔明に事の仔細を報告する。
「そうでしたか…馬謖のことは、私の言葉を無視し山上に布陣した馬謖の責、あなた方の責では
ありません。とりあえず軍を建て直すために明日、ここを引き払います。今宵はゆっくり休養を
取るように」
 孔明の幕舎を下がったとき、姜維は少し青ざめた顔で言った。
「このまま、趙将軍の幕へお邪魔してよろしいでしょうか」
「ああ、かまわないが…」
 馬謖が敗走したことに、まだ責任を感じているのだろうか。
 趙雲は姜維に酒を勧めた。
「いいえ、けっこうです…酔った上でお話するのは、卑怯な気がしますので」
「先ほどからなにを言っている。馬謖殿のことならもう丞相が…」
「私は馬謖殿の要請を無視したのです」
 淡々と答える姜維を、趙雲は思わず見つめた。
「私は山上へ向かう道の途中で、すでに敵と遭遇していた馬謖殿の援軍要請を乞う伝令兵とあいました。
私はその要請を承諾し伝令兵を帰してから…その場を動かなかったのです」
「な、なぜだ!」
 姜維ほどの将が向かえば、敵の一団など簡単に撃破できたはずだ。
 趙雲の頭を疑問ばかりが渦巻く。
 姜維は自分の組んだ手元を見つめ、ポツリポツリと話し始めた。
「私は馬謖殿が妬ましかったのです…今でこそ、丞相は私を信頼してくださっていますが、私がここへ
くる以前は馬謖殿のほうが寵愛を受けておられました。私は降将、いつ裏切るかと思っている方も
少なくはありません。私を一番怪しんでいたのは…馬謖殿でした。馬謖殿がいなくなれば、私はずっと
丞相に信頼してもらえる…私の頭に、悪鬼が…ささやいたの…です」
 姜維の頬を涙が伝い卓にこぼれる。
 顔を覆った手を強引につかみ、趙雲は姜維の顔を上げさせた。
「愚かな…だれがそんなことを言ったのだ。だれもがそなたを信頼している。無論この俺も、だ」
「口ではなんとでも申せます」
 疑心暗鬼に陥っている姜維は、逆に趙雲をにらみつけてくる。
 趙雲はいきなり姜維を引き寄せその唇に口づけた。
「どうすれば信じてもらえるのかはわからんが…俺の気持ちはこうだ」
 そのまま姜維を寝台に押し倒す。
 姜維は当然のように抗った。
「いや…同情なんていりませんっ」
「同情なんかじゃない」
 きつく抱きしめ噛みつくように口づける。姜維の抵抗は徐々に弱まっていった。
「趙…将軍」
「軍のだれがそなたを罵っても、俺はそなたを離さない…」
 姜維の目に新たな涙が浮かんでいた。

 姜維の白い身体は思ったよりも華奢で、強く抱きしめたら折れてしまいそうだった。
 だが、ところどころに傷がある。
「あまり…見ないでください。私だって、傷つくこともあるのです。でも」
 姜維は趙雲の身体を見た。
「将軍のお身体のほうがすごいですね」
 幾多の戦場を越えた趙雲も無傷であるはずがなかった。
 姜維がやっと笑ったことに気をよくし、趙雲は何度も口づけを繰り返しながら、大きな手で姜維
の身体を愛撫していった。
 特に背中を、骨にそってなぞれば、姜維はそこが弱いらしく小さな声を上げて身をよじる。
 趙雲はそのまま手を引き締まった尻へと滑らせた。
「あ…っ」
「怖いか?」
 姜維は小さく首を振る。
「趙将軍だから…怖くありません」
 手近にあった燭の油を指に取り、十分に菊門を潤してやった。
 軽く指を沈めれば、姜維は眉根を寄せて唇を噛んだが拒絶はしなかった。
「力を抜いて…息を吐くんだ」
「は…い」
 趙雲は姜維の腰を心持ち持ち上げ、己の猛った男根をあてがった。
 きつい抵抗に顔をしかめながらも腰を進めていく。
「く…ああっ!」
 すべてが収まってしまうと姜維は大きく息を吐いた。
「大丈夫か?」
「は、はい…で、でも」
「うん?」
「まだ動かないでください…」
 姜維の呼吸が整うのを待ってから、趙雲は痛みに萎えた姜維の男根を優しく愛撫してやった。
「あ…あぅん…」
 姜維の男根が徐々に硬度を増すにつれ、趙雲が締め付けられる。
 ゆっくりと腰を動かしながら趙雲も呼吸を乱し始めた。
「一緒に…果てるか?」
「は…い…ああーっ!」
 姜維はひときわ大きな声を上げると、趙雲が果てるのを待たず腕の中で眠りに落ちていった。

 翌朝、趙雲はまだ眠っている姜維の髪を撫でながらささやいた。
「もう、このことは忘れろ。俺もだれにも口外しない…昨夜の俺の言葉に、二心はない…」
 その言葉は姜維に届いただろうか…しかし、この後最後まで姜維が趙雲に付き従ったのは、
万人の知るところである。
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