「姜維伯約と申します。よろしくお願いします」
 孔明に請われた姜維が劉備軍にやってきて、なんとなく空気が変わった。
 孔明はもちろんのこと、馬超やあの魏延でさえ姜維には柔らかく接している。そして趙雲もまた…。

 街亭で、趙雲は孔明の命令を忠実に守っていた。曰く、馬謖が危機に陥るようなことがあればすぐに
きていただきたい、と。
 しかし戦況は孔明の思惑通りには進まなかった。
「馬超軍、敗走! 姜維隊、退却!」
 その報を聞いた趙雲はいてもたってもいられず、孔明の許しを得て退く馬超を援護するため東の
山道へと向かった。
「馬超殿、ご無事か!」
「おお趙雲殿、きてくださったのか、ありがたい」
 馬超は感謝しながら兵を励まし自陣へと戻る。
 趙雲はその雑踏の中に姜維の姿を探していた。
「姜維はどこにいる」
 逃げてきた姜維隊の兵士を捕まえ尋ねる。
 兵士は少し考えて答えた。
「姜維様は我らを逃すため、しんがりを務めるとおっしゃって…」
「なんと! では急ぎ向かう!」
 趙雲は馬を飛ばしひたすら駆けた。
 数十の魏兵をなぎ払ったが姜維の姿は見えてこない。
(まさか…捕らわれたか、殺されたのではないだろうな…っ)
 気持ちばかりが焦る。
 その苛立ちは魏軍への怒りに代わり、趙雲は典韋と戦ってこれを退けた。
 ようやく落ち着きを取り戻してから、馬と人の屍を縫って改めて姜維を探す。
「姜維! 姜維! おらぬか!」
「…ここに」
 岩陰から弱々しい声が聞こえた。
 見れば大きな岩の陰に姜維がうずくまっている。
「おう無事だったか。なぜこのような場所に…みなと逃げればよかったであろう」
「最後の最後までと思い奮戦いたしましたが、敵兵に腿を槍で突かれ馬から落ちました。動けぬまま
捕らわれては孔明様に申し訳が立たぬと隠れておった次第です…」
 姜維の声は消え入りそうなほど細かった。
 それを趙雲が一喝する。
「愚かな! 戦況の悪いときには退くことも重要だ。つまらぬ意地なぞ張って命を落としたりすれば、
それこそ孔明殿に申し訳が立たぬぞ」
「…はい」
 そう言ったあとで趙雲は、本当に孔明のためだけだろうかと思う。
 自分も姜維を失いたくない…。
「ところで傷の具合はどうだ。深いのか」
「いえ、そうたいしたことはありません」
 だが姜維の腿に巻かれた布はすでに血まみれになっている。
 趙雲はそれを取り替えてやりながらなおも説教を続けた。
「そんなに我を張るものではない。痛むのなら痛むと正直に言え」
 ややあってから姜維はまた小さな声で答えた。
「…痛いです。歩けません…」
 素直な返事に趙雲は苦笑して、姜維に背中を差し出した。
 姜維は少しためらってからその背中に背負われた。
 馬をつないだ場所まで趙雲に揺られる。
 趙雲の耳元に恥ずかしそうな声が聞こえた。
「父や…兄の背というのは…このように温かいのでしょうか…」
 そういえば姜維には父がいないと聞いている。
「そう思いたければ思っていてよい…」
 幕舎へ戻ってから趙雲は姜維の腿を覆っている布を取り、新しいものと取り替えてやった。
「す、すみません。甘えてしまって…」
「よい」
 ついでに身体も拭いてやった。
 この白く華奢な身体のどこに、あの恒一閃を振り回す力があるのかと思う。
「こんなことじゃ…趙雲様のように強くなれませんね」
「なぜ? 俺のように?」
 姜維の頬が赤く染まる。
「だ、だってあの…趙雲様はお強いですから…姜維の憧れで…」
 そう言ってしまってから恥ずかしそうに顔を隠した。
 その隠れた顔を趙雲が意地悪くのぞき込む。
「では、俺は、姜維が俺に恋焦がれていると自惚れてもいいのかな?」
 姜維は顔を隠したままでコクンとうなずいた。
「俺は…もっと自惚れるぞ?」
 姜維がまたうなずいた。

 姜維の唇は女のそれと同じか、もっと甘いように感じられた。
 趙雲がほかの部分を愛撫しようとしても、姜維はさらに唇を求めてくる。
「…姜維」
「お願いです…どうか、このまま…」
 なにも知らない子供のような姜維だから、趙雲を受け入れたいと思っていても心の中では恐れて
いるのだろう。
 趙雲は姜維をそっと抱き寄せ自分の膝に座らせた。
「痛くはないか」
「…はい」
 まだ幼さを残すそれをやんわりと握り締め緩々と動かす。
「あ…ぁっ」
 思わず上がった声をこらえるようにまた唇を重ねた。
 趙雲は自分の首に回されていた姜維の手をつかむと、そのまま自分の猛りに導いた。
「俺のもな…」
 姜維は細い指をそれに絡め、口づけを交わしながら自分がされているように愛撫した。
「ん…んっ…んんっ!」
 姜維の情熱が趙雲の手を汚す。
 うっすらと涙を浮かべながらハアハアと息を乱す姜維が愛しくなってきた。
「姜維、じっとしていろ」
 負傷したほうの腿をかばいながら姜維を自分の腹の上に乗せる。
「ちょ、趙雲様?」
「案ずるな、痛くしない…」
 驚き戸惑う姜維に微笑み返し、姜維の尻をつかんだ趙雲はその柔らかな肉のあいだにおのれの猛りを
挟み込んだ。
「あ…ああっ!」
 痛みはないが奇妙な感覚…姜維は身体を揺すられながらせつない目で趙雲を見た。
「趙雲様…趙雲様っ」
 何度も何度も愛しい男の名を呼びながら…。

 趙雲のたくましい胸に頭を持たせかけていた姜維は、少し背伸びをすると趙雲の耳にささやいた。
「今度はきっと…私が趙雲様をお助けいたします…」
 その髪をクシャクシャと撫でながら趙雲はささやき返した。
「ならば俺の側におれ。俺を決して見失わぬようにな…」
 姜維が深くうなずいた。
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