馬超は自分の屋敷でまんじりともしない夜を過ごしていた。昼間の一件で気が落ち着かない。
(姜維を悲しませてしまった…)
 姜維への思いで胸がいっぱいになる。
(くそ。俺としたことがなんという愚かな…)
 惚れた女は何人かいた。どの女も美しくそれなりに優しかった。けれども性の捌け口くらいにしか考えず、
馬超は蜀へ降ったときよい男の妻になれと言い残し幾ばくかの金を与えてみんな置いてきた。
 だが姜維への気持ちはどの女に抱いたものとも違う。ただただ愛しく、欲しいと思った。
「旦那様、お客様でございますが」
 寝室の外から下男が声をかける。馬超は寝台に横たわったまま不機嫌な声を出した。
「こんな夜更けにだれだ」
「姜伯約様でございます。どうしても大事なお話があるとのことで、こちらのほうへお見えですが…」
 馬超はあわてて身体を起こした。
「よい、通せ」
 下男が扉を開けると軽く会釈をして姜維が入ってきた。頭からすっぽりと布をかぶりまるで姿を隠しているようにも
見える。
「こんな夜更けに申し訳ありません。どうしてもお話したいことがあったものですから…」
「い、いや、かまわない」
 なぜか胸がときめいてしまう。馬超はそんな自分を小馬鹿にしながら燭に明かりを灯した。
「宮殿からなにか知らせでもあったのか?」
「いえ、そうではありません」
 姜維はかぶっていた布を取った。髪を解いた姿はどこか少女のようにも見える。姜維は馬超の前に座りながら
目をそらしたまま口を開いた。
「昼間の話でございますが…」
 恨み言でも言いにきたのかと馬超は緊張する。しかし姜維の口から出た言葉は意外なものだった。
「馬将軍はどなたからお聞きになったのですか?」
「俺は…趙雲殿から直接聞いた。あのような下司な言葉は俺の口から出たものだ」
「そうでしたか。それで…どなたかにお話ですか」
「いや…趙雲殿が俺を信用して話してくれたこと。口外はしていない」
 姜維は馬超のそばにひざまずき、すがるような目で哀願した。
「ではどうか…将軍の話されたことすべてをお忘れになっていただけませんか…」
「どういう…ことだ?」
「将軍の恥を副将が隠すのは当然のことでございますから」
 そこで馬超は、この話を一番忘れたがっているのは姜維だと気づいた。劉禅と趙雲のことを認めたくないに
違いない。
「だが、趙雲殿はそれを恥とは思っておられないようだったぞ。むしろ王太子をお守りするのが自分の役目と…」
「ですから!」
 姜維は強い口調で馬超の言葉をさえぎった。
「将軍の思い出は消せませぬ。私は…将軍以外の方の口からそのようなお話を聞きたくないのです。お願いです、
馬将軍…」
 今度は馬超の足元に身を投げ出してきた。
「忘れてくださいませ。趙雲殿の昔を…あの方とのことを…そのためでしたら…」
「どのようなことでもするというのか」
 姜維はコクンとだけうなずいた。馬超の中に再び、あの邪な欲望がわき起こってくる。
「…衣を脱ぎ、俺の膝へこいといえば、くるか…?」
 姜維の目に侮蔑したような色はなかった。むしろそのくらいのことは容易いと言わんばかりに、衝立の陰へいき衣を
かけると素直に馬超の膝に上がった。
 大人になりきっていない身体から立ち上るかすかな香の薫りに眩暈がする。どこに槍を振り回す力があるのかと
思うほど華奢な身体を抱きしめると、馬超はそのまま押し倒しのしかかった。
「…姜維…!」
 何度も何度も口づける。
「お前は…お前は俺を狂わせる…こんなに欲しいと思ったのは、お前だけだ…」
 荒々しさをほんの少し怖がって、姜維の身体はかすかに震えていた。勘違いした馬超は小さな笑みを浮かべて
ささやく。
「怖がらなくていい…俺がちゃんと導いてやる…」
 そうしながら身体に這わせた手で淡い茂みを探って触れた男根を軽く握り締める。
「ああ…っ」
 桜色の突起を舌先で転がし、身体中をまんべんなく愛撫してやる。それからおもむろに手にあった男根を口に含んだ。
「や…っ…い、いけませんっ。ああっ…そ、そのようなことは…」
「かまわない…お前は素直に感じて声を聞かせていればいい」
「やあ…あっ」
 趙雲からこんなふうに愛されたことはない。それどころか趙雲に触らせまいとしていたくらいだった。
 姜維はうっすらと涙を浮かべていやいやをした。しかし身体は素直に反応しはしたない声が出てしまう。馬超は
その反応を楽しみながらゆっくりと愛してやった。
「い、いやっ! だめぇっ!」
 馬超の頭を押さえている手に力がこもる。そっと姜維の菊門に指を這わせると最初は抵抗があったが何度か指を
抽出するとするりと飲み込んだ。その従順さに違和感を覚え馬超の態度が一変した。
 自分の解けた髪で姜維の男根をきつく縛ってしまう。血流を止められ姜維は苦しそうに眉を寄せた。
「姜維…お前、俺が初めての相手ではないのか?」
 縛ったままの男根を舌先で弄ぶ。果てたいのに果てられず、姜維は泣いて許しを乞うた。
「わ、私は…私はっ…」
「言え! お前を最初に抱いたのはだれだ」
 ふいに姜維の興奮が鎮まった。馬超から目をそらし涙がこぼれる。
「趙雲殿よりお聞きではありませんか…私が、将軍と出会う前、なにをしていたか…」
 そういえば以前、趙雲から姜維の身の上を聞かされたことがあった。天水の太守に弄ばれ、傷つけられこと…。
 馬超は己の軽率さを恥じ、髪を解いて姜維を優しく抱きしめた。
「そうか…お前を思うあまり、だれにも触れさせたくない故にこのように責めてしまった、許せ」
 それからは再び優しい愛撫が始まった。
「あ…ああっ! も、もう…!」
 姜維の身体がかすかに痙攣し馬超の口中に吐精した。馬超はそれを枕紙に吐き出し姜維の腰を抱いた。菊門に
差し入れた指で静かに解した後馬超は己の昂ぶった男根を差し込んだ。
「あーっ!」
 姜維は身体をのけぞらせて眉をしかめる。
 だが、壊れ物を扱うような趙雲の抱き方とは違い、荒々しく突き上げてくる馬超のほうに感じてしまう。いつしか姜維は
両足で馬超の腰を抱えていた。
「うん?…そうか、いいか…」
 感じている姜維に気をよくし、馬超はさらに奥へと打ち込んだ。姜維の身体がいっそう大きく弾む。
「あ…ああ…」
「俺を呼べ…」
 馬超の首に腕を巻きつけ、あえぎ声の中で馬超の字を呼んだ。
「ああ…孟起ど…の…」
「姜維…愛しい…もう離さない…」
 馬超は姜維をきつく抱き締めると、己のものだという証拠のように姜維の中へ注ぎ込んだ。
 激しい情事に疲れたのか、姜維は馬超の紅い痕が残る身体をしどけなく投げ出して眠っている。その髪をかきあげ額に
優しく口づけて馬超はささやいた。
「俺は、お前を俺のものにする…もう趙雲殿にも返さない…」
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