「…だれかおるか」
 夜明け間近、くぐもった曹操の声に近侍が寝所の扉に手をかける。
「丞相、いかがなさいましたか」
「寝乱れておる、戸は開けずともよい」
「はっ」
 近侍が手を離す。
 それを待っていたかのように曹操の言葉が続いた。
「思いついたことがある。夏侯将軍を急ぎこれへ」
「ははっ」
 早朝の、しかも寝所への急な呼び出しとあって夏侯惇はとるものもとりあえず寝所に駆け込んだ。
「孟徳、いかがいたした!」
「…元譲か」
 まだ日が昇る前で寝所の薄闇の中、声の主の姿は見えない。
 夏侯惇は目を凝らし衝立の後ろに人影を見つけた。
「孟徳、なぜそんなところに…」
「あまり大きな声を出すな、元譲」
 照れたような声に夏侯惇は手近の燭に火をともす。
 明かりの中に浮かんだ曹操の姿を見て思わず言葉を失った。
「…見るな」
 曹操は両手を後ろに縛られ、まるで罪人のような形で転がっていた。
「何事が起こったのだ」
 昨夜愛妾のひとりと同衾し愛を交わしたまではよかったが、とろとろと眠り込んだところでほかの
女の名を呼んだらしい。
 それに怒った愛妾が眠っている曹操を縛り上げて夜明け前に消えてしまったとのことだった。
 あまりのことに夏侯惇は長い長い嘆息を漏らし、同時に早朝から呼びつけた曹操に腹が立ってきた。
「元譲、早く解いてくれ」
「女という業の者の虜囚となった気分はどうだ?」
「意地の悪いことを申すな」
 相手が敵将であったならば相手を殺すほどの眼力で睨めつけるのだろうが、愛妾のいたずらで、
しかも夏侯惇の目の前ということもあってか、曹操はまるでいたずらが見つかった子供のように
恥ずかしそうな表情をしている。
「…まったく、そなたはいつになったら落ち着くのだ。いっそこのままにしておいたほうがそれ以上
女に手を出すこともできずよいかもしれぬな」
「元譲、くだらぬ冗談を言っておらんで早う解け」
 夏侯惇は曹操の前にかがみこんだ。
 はじめに自分でなんとか解こうとしてもがいたらしく胸元がはだけ、たくましい胸に縄のこすれたあとが
紅く残っている。
 広がった胸元をさらに少し開くと褐色の突起が現われた。
 軽く指先で弄んでやると曹操は身をよじり新しい紅い線が引かれた。
「げ…ん…」
 かすれた声の訴えを無視し夏侯惇は突起に舌先を触れさせた。
「ふっ…ああ…」
 こんなにたくましい男なのに弱いところを責められると簡単に落ちる。
 いつしか曹操の足が開き始め、裾が乱れて筋肉質の太腿が剥き出しになった。
 その太腿を夏侯惇の手がすべっていった。
 やがて手は下帯にたどりつき布地の上からやんわりと男根を愛撫し始めた。
「う…」
 思わずのけぞらせた喉に夏侯惇の唇が這う。
 下帯を外して現われた男根を夏侯惇の手がピシャリと叩いた。
 曹操の端正な顔が歪む。
「女も愚かなことだ。どうせ縛り上げるならおぬしではなく、女を求めるこれを縛り上げるべきで
あるのに」
 そう言って下帯を細く裂き男根に巻きつけた。
 両端を持ち緩々と動かす…敏感な皮膚を布地にこすられ曹操は息を荒げてうめいた。
「あ…元譲…も…う」
「丞相ともあろう者が堪え性がないな」
 夏侯惇は巻きつけてあった布を交差させ根元のあたりできつく縛ってしまった。
「ううっ」
 押し倒された曹操の顔が歪んだのは、自分の下敷きになった両手の痛みかそれとも血流を止められて
疼き出す男根のせいか。
 夏侯惇は曹操の両足を抱え脹脛を両肩に乗せると曹操の後ろを一気に貫いた。
「う…おお…っ」
 自由を奪った状態で組み敷いている曹操がひどく愛しかった。
 この愛しい男は自分のものだというように夏侯惇は激しく曹操の唇を貪った。
「元…譲、ほど…け」
「どちらをだ? 腕かそれとも…」
「もう…限界だ…」
 爪の先で結び目を緩め、男根を解放してやる。
 白濁した液体が曹操のたくましい胸に飛び散った…。

 擦過傷になった手首をさすりながら曹操はかすかに顔をしかめた。
「趙氏め、こんな真似をしおって…」
「反省するのはお主のほうだろうが…これに懲りたら二度と寝所でほかの女の名など口にせぬことだな」
 たしなめられた曹操が口をとがらせる。
「そう言うお前はどうなのだ。うっかり妾の名を間違ったりはしないと言うのか」
「ほかの女の名など呼ばん…」
 夢うつつの中で呼ぶとしたら…夏侯惇は曹操のほうを見ながら、それ以上答えずただただ笑うばかり
だった…。
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