日の光はこんなにもまばゆいのに、夏侯惇の左側は闇の中だった。
(だれも恨むまい…敵を深追いした俺が愚かだったのだ…)
 だが寝所の扉に人影が映ったのは見えた。
「旦那様、お客様がお見えです」
 使用人の声に夏侯惇は半身を起こす。
「だれだ」
「曹孟徳様でございます」
「おお、ではすぐにお通ししろ」
「もういらしておいでです」
 取次ぎを待たずずかずかと入り込んでくるのが曹操らしい。
 夏侯惇は苦笑して酒の支度をさせた。
「元譲、具合はどうだ? 左の目を失ったと聞いて見舞いにきたぞ」
「すまぬな、孟徳殿。思わぬ暇をもろうたがすっかりよくなったのだ」
 口ではそう言っているがまだ多少の出血があるらしく、夏侯惇の左眼を覆う布には少々血がにじんでいる。
 曹操はその左頬をそっと撫でた。
「無理をするな。今はしっかりと養生してまたわしのために戦ってくれ」
「おう、もちろんだとも。俺の願いはそなたが天下を取ることだからな」
 使用人が酒と肴を運んでくる。
 ふたりは酒を酌み交わし戦話に花を咲かせた。
 小一刻も過ぎた頃、曹操はふと杯を置くといつになく神妙な面持ちで口を開いた。
「なあ元譲…その、お前は左側がどれくらい見えているのだ? 敵がきてもわかるのか?」
 曹操の不安を感じた夏侯惇は、大きな声でその不安を飛ばしてやろうとした。
「なにを言われるか。俺の右目は左目以上によく見える。美しい女が近寄ってきたらそなた以上に
早く手を出せるぞ」
「そうか。ではわしがなにをしたかわかるか?」
 消えた視界で曹操の気配だけを感じる…曹操の吐息を頬に感じたとたん、硬い毛と柔らかいものが触れた。
 頬に口づけされたと知って夏侯惇の身体が硬直する。
 小さく苦笑しながら曹操のほうを向いた。
「戯れがすぎるぞ、孟徳殿」
「ふざけてなどおらぬ。実際、お前はわしの姿が見えなかったではないか」
 夏侯惇の気持ちはよくわかるが、やはり見えてはいない左側を攻められればあっけなくその首を
失うことになるだろう…自分の片腕とも頼む夏侯惇を失いたくはなかった。
 しかし夏侯惇にもう戦場へ出るなとは言えない。
 沈んだ雰囲気がいやで夏侯惇は酔った振りをして曹操の肩を叩いた。
「今のはそなただったから虚を突かれたのだ。そなたが美しい婦女子なら、ほれこのように」
 今度は夏侯惇が曹操の頬に口づけた。
 頬よりもっと唇に近かった。
 曹操もいつしかその戯れに興じていく。
 膳をどけ、夏侯惇ににじり寄ってその膝に手を置く。
 その手が下裳を割り下帯に伸びた。
「ほほう、さすがに婦女子でなければ自慢の一物も役に立たぬか」
「怪我で伏せっていたせいだ。最近は女も近づけておらぬから一晩中でも抱いておれるぞ。そう言う
そなたはどうなのだ」
 夏侯惇も曹操の男根に触れた。
「相も変わらず見事なものよ。幾人の女を泣かせてきたのか」
 酒の上の戯れに、夏侯惇はそのまま男根をしごいてみる。
 曹操は夏侯惇の身体を引き寄せかき抱いた。
「そなたの昂ぶりはわしが放ってやろう」
 夏侯惇を優しく押し倒し、下帯を外してその男根を口に含んでやった。
 曹操の髭が夏侯惇の太腿にちくりと刺さる。
「おう…孟徳殿…」
 曹操は十分に立ち上がらせると濡れた唇を手の甲で拭った。
 夏侯惇は少々息を弾ませながら曹操の身体を引き寄せた。
「孟徳殿、俺の昂ぶりを鎮めてくれるというのなら…俺の上にまいられよ」
 その言葉に曹操は少し困惑したがすぐに潔く下帯を取り去った。
 夏侯惇の腰をまたぎ静かに腰を下ろしていく。
 立ち上がった夏侯惇の男根がゆっくりと曹操の中に埋没していった。
「うむ…っ」
 汗にまみれ裂かれる痛みに歪む端正な顔を、夏侯惇は美しいと思った。
 いずれは天下を取るという覇業を為しうる男…その男の馬となりながら男を征服しているという至福。
 夏侯惇は痛みに萎えた曹操の男根に手を添え、そっと愛撫を始めた。
「う…おお…」
 曹操の腰の動きに夏侯惇も上り詰めていく。
 曹操の内部に注ぎ込むと同時に夏侯惇の腹にも曹操の熱い迸りが散っていた。

「明日は馬に乗るのが少々堪えるかもしれぬな」
 そんな冗談を言いながら曹操が去ったあと、夏侯惇は再び寝台へ横になった。
 ふと…気づく。
 先ほどまで闇しかなかった左の目に光を感じている。
 夏侯惇ははっとして起き上がった。
(この目が…失った左の目が光を追っている…孟徳のためにもう一度戦えと神仏が俺に
光を与えてくれたのだ…)
 夏侯惇は寝台から飛び降りると大声で呼ばわった。
「甲冑を持て! 戦だ…戦に出るぞ!」
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