それは天の底が抜けたのではないかと思えるほど、ひどい雨の日だった。
 夏侯惇は雨でなにも見えない外に目を向けながら、曹操のことを考えていた。
 自分に許都の守備を任せ、呉を討つために意気揚揚と赤壁へと向かった曹操…なにやら胸騒ぎが
していたのだが、そのいやな予感はあたってしまった。
 赤壁において、曹操軍が大敗したことは、許都の夏侯惇にも知らされた。
「孟徳が無事であったならそれでいい」
 夏侯惇はそうつぶやいただけだった。
 許都へ戻ってきた曹操は姿を見せなかった。
 何日も何日も…。
 周囲は曹操が敗戦の傷を癒しているものだと思っていたが、曹操の姿はその日、宮殿からも消えていた。
 その知らせは、自宅にいた夏侯惇にも届いたが夏侯惇はなにも言わなかった。
「旦那様…」
 おろおろと使用人が声をかける。
 窓の外で激しく降る雨を、にらみつけるように見つめていた夏侯惇は、ただ顎をしゃくって使用人を
下がらせた。
 庭に面した回廊に出る。
 雨が吹き込んで濡れた欄干の向こう、雨の中に人がたたずんでいた。
 曹操だった。
 曹操は、雨に打たれずぶ濡れになりながらもその場を動こうとしない。
 黙ったまま、その曹操を見ていた夏侯惇は低い声で言った。
「入ってこい」

 夏侯惇の自室に通された曹操は、髪から雫が落ちるのも気にせず、ビクリとも動こうとしない。
「今度はだれだ」
 夏侯惇の問いにも温く首を振るだけ。
 だが夏侯惇にはわかっていた。
 一度目は息子曹昂と典韋、二度目は郭嘉…曹操はいつもだれかを失ったり、傷つけたりすると
こうやって夏侯惇のもとを訪れる、必ず激しい雨の日に。
 慰めの言葉やいたわりがほしいわけではない。
「元譲…」
 すがるような目で求めるものは…夏侯惇の身体だけ。
「抱いてくれ、元譲」
 優しい愛撫や口づけはいらない。
 屈辱にも似た痛みをほしがる。
 夏侯惇は曹操の濡れた頭から冠を外した。
 濡れた髪が重く落ちてくる。
 それから濡れた衣を脱がせ、雨で冷たくなった身体を晒した。
 たくましい胸についた褐色の突起を思いきりつねりあげる。
 曹操は小さくうめいて背をのけぞらせた。
「痛いか、孟徳」
 曹操は首を振る。
「いい…痛いくらいで…」
 夏侯惇は唇を寄せ、乳首に歯を立てた。
「…うっ」
 冷たく白かった曹操の肌に赤みがさしてくる。
「元譲…元譲、責めてくれ。私を…責めてくれ」
 それで失ったものが戻ってくるわけではない。
 けれど曹操は自分を責められることで、悲しみを忘れたがっているようだった。
 夏侯惇は曹操の頭をつかみ、自分の股間へと押しつけた。
「孟徳、口でしろ」
 曹操はせつない目で少しだけ夏侯惇を見上げ、再び目を閉じると夏侯惇の男根を口に含んだ。
 舌先で先端を嬲り、顔全体を動かして男根を愛撫する。
 そうさせながら夏侯惇は四つん這いになった曹操の尻に手を伸ばした。
 そのまま菊門に指を這わせれば、当然のように乾ききしむ感覚がある。
 いつもなら香油など使って滑らせてから挿入するのだが、今日の曹操はそれを望んでいない。
 無理矢理指をねじ込むと、曹操は床に爪を立てて耐えた。
「入れてやる…向こうを向け」
 夏侯惇の男根から口を離し、曹操が従う。
 夏侯惇は曹操の菊門に両手の親指を差し入れ、左右に押し広げた。
「あうっ!」
「力を抜いて息を吐け」
 こじ開けられるつらさを堪え、命じられるまま息を吐く。
 指のあいだにできた隙間に男根を押し当て、夏侯惇は静かに挿入していった。
「う…くっ…ううっ!」
 香油などで潤いのない菊門は、夏侯惇自身にも痛みを与える。
 それにもかまわず押し進めると、曹操の菊門は簡単に裂け血がにじみだした。
「もっと…もっと痛くしてくれ…」
 夏侯惇は腰を揺すりながら、曹操の前に手を回した。
 痛みに萎えている男根をきつくつかむ。
 そんなに伸びていない夏侯惇の爪が、曹操の男根に食い込んだ。
 さらに親指を先端に差し込み尿道口を嬲れば、曹操はせつない声を上げて腰を浮かせる。
「ああっ!」
 夏侯惇の手に脈が伝わってきた。
「こらえろ」
「あ…ああっ…げ、元譲…っ」
 どんなに我慢しようとしても本能が許さない。
 曹操の菊門が激しく収縮し、男根から勢いよく精液が噴出した。
 夏侯惇は自分も果てそうになるのをこらえて男根を引き抜き、仰向けにひっくり返した曹操の顔面に
精液を飛び散らせる。
 曹操は息を弾ませ、夏侯惇の放ったものの香りを吸い込んだ。
 その曹操の鼻先に、夏侯惇は濡れた手を突きつける。
「舐め取れ」
 曹操は素直に舌を突き出し、夏侯惇の手から自分の精液を舐めた。
 自分の顔を夏侯惇の精液が伝うのもかまわずに。

 まだ興奮治まらぬ曹操にそっと乾いた衣をかけてやりながら、夏侯惇は曹操の髪を撫でた。
 曹操の閉じた目から涙が一筋こぼれる。
「…たくさんの兵を失った」
「ああ」
「私のために…諸将が負傷した」
「もう言うな」
 夏侯惇は撫でていた髪をグイとつかんだ。
 突然の痛みに曹操が顔をしかめる。
「卑しくも曹孟徳ともあろう者が、兵や将を失ったくらいで己を責めるのはやめろ。死んでいった者たちは
お前の痛みなど欲していない」
「そう…か」
 疲れきった曹操の目を閉じさせる。
 やがて…曹操は穏やかな寝息を立て始めた。
 その曹操の顔を見ながら夏侯惇は考えていた。
 だれかを失うと必ず夏侯惇を求めてきた曹操…。
「もし俺が死んだら…お前はだれを求めるのだ?」
 問いかけに対する答えはない。
「お前より先には逝けんな…」
 夏侯惇のため息は雨の音に消された。
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