日が落ちてずいぶんと経つ。
 部屋の中にあるふたつの影も今は闇の中に溶け込んで形はない。
 やがてその闇が深い青に変わった。
「…は…っ」
 日がな一日愛し合っていても、互いを貪りたいという気持ちが萎えない。
「孟徳…」
 夏侯惇は今さっき自分がつけた痕を、思い出すようにひとつずつ口づけていった。
 そのくせいつまでたっても肝心の場所に触れようとしない。
 曹操は焦れたように腰をくねらせた。
「元譲…なにを待っている?」
「お前が欲しがるのを」
 低く笑いながらそう言って夏侯惇はさらに深く口づけた。
 愛の言葉など子供じみたものはもう要らない。
 重ねた身体の温度が互いの気持ちを物語る。
 焦れた曹操は自分から夏侯惇の裾から手を割り込ませ、昼間自分の中でさんざん暴れていたものに
触れた。
 茎を撫で上げくびれた部分を弄ぶ。
 自分の指がしっとりと濡れていくのが感じられた。
 曹操は夏侯惇の腕からするりと逃れ、そのまま身体を下に滑らせると夏侯惇のそれを口に含んだ。
 腰に手を回し夏侯惇を逃さない。
「孟徳…」
 わざと淫らな音を立てながら吸い上げる。
 しばらく為すがままになっていた夏侯惇は、やおら体勢を変えると曹操の上に覆いかぶさった。
 衣の裾を捲り上げ曹操を口に含む。
「んっ…元譲…っ」
「やめるな、孟徳」
 思わず悦びの声を上げたくなって口を離しそうになる。
 それを夏侯惇のものでふさがれた。
「元譲…もう、欲しい…っ」
 我慢比べは曹操の負けだった。

 寝台に伏せさせようとする夏侯惇の手をやんわりと押さえる。
「お前の顔を見ていたいから…」
 本来この体勢で抱こうとすればかなり窮屈な格好になるのだが、曹操はそれすら厭わないようだった。
 曹操が異国からきた商人から買い求めたという洋灯。
 灯してみればそれは陽の光の色ではなく深い藍に似た色を放った。
 夏侯惇の髪も肌も瞳も青…まるで深い深い水の底で愛し合っているような錯覚を起こし、ふと
息苦しささえ覚えて曹操は夏侯惇にしがみついた。
「孟徳?」
「…つかまえていてくれ、元譲…」
 夏侯惇は小さくうなずくと曹操の両足を抱え一気に貫いた。
「ああ…っ!」
 どんなに慣れても夏侯惇が入ってくるときには声が上がってしまう。
「大丈夫か?」
 気遣ってくれる夏侯惇の優しさに眉根を寄せながらも小さく微笑んだ。
「動かないと…よくならん」
 乱れ、ほつれた曹操の髪をかきあげながら夏侯惇は静かに腰を動かし始めた。
「う…ああっ…」
 寝台が男ふたりの重さに悲鳴をあげる。
 夏侯惇は自分の腰の動きに合わせて、痛みに萎えた曹操のそれを静かに愛撫した。
 前後を同時に責められて曹操は激しく首を振り夏侯惇にしがみつく。
 まるで溺れかかっているように…。
 荒い息を吐く夏侯惇がさらに体重をかけてのしかかってきた。
 息がつまり目がくらみそうになる。
 痛みと快感が交差する感覚の中、曹操の中でなにかが弾けた…。

 優しく頬を撫でられて目が覚めた。
 気を失っていたらしい。
 半身を起こした夏侯惇が曹操の髪を弄んでいた。
「気がついたか孟徳」
「…ああ」
 ふわりと浮かんだ青い明かりの脇で夏侯惇の顔は少し陰になる。
「水底では…お前はこういうふうに見えるのか」
「水底?」
 曹操の言葉の意味がわからずに夏侯惇は不思議そうな顔になった。
 曹操はまるで子供のようにクスクスと笑う。
「なら…」
 夏侯惇が再び曹操の上に覆いかぶさってきた。
「このままふたりで沈んでいくか…」
 深い深い青の中、曹操の忍び笑いは水音のように聞こえた。
 やがてそれが止んだとき…青はまた闇へと戻った。
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