外ではまだ激しい吹雪の音がしている。ぼんやりとまあるいロウソクの明かりの下、ふたりの男は
毛足の長い毛布に包まって暖炉の中ではぜる薪をながめていた。

 事の起こりは数時間前。
 新しいリゾート開発の一環として、曹操と夏侯惇は実験的に建てたコテージを見にきた。
 すでに山は雪化粧をしていて膝まで積もらせた雪でふたりを出迎えた。
「スキーシーズンになれば合宿所としても使えそうだな」
「雪の多さには目を見張るものがあるが、定期的に除雪車を走らせれば解決するだろう」
 あと何軒くらい建てられそうかを試算している最中だった。
 ふいに玄関のところで大きな音がした。
 あわてて駆け出した夏侯惇が大きな声を出す。
「孟徳! ドアが開かんぞ!」
 外へ向かって開くタイプのドアなのだが、屋根雪が大量に落ちて玄関ポーチを埋め尽くしドアを
ふさいでしまったらしい。
 何度か体当たりをする夏侯惇を曹操が止めた。
「よせ元譲、振動でさらに雪が落ちてくる可能性がある。今荀ケに連絡を取って救助にくるよう言おう」
 携帯を取り出しボタンをプッシュする。
「思ったより積もるようだな。屋根の向きを考えていなかったのか」
 舌打ちしているあいだにつながった携帯からは信じられないような言葉が返ってきた。
『社長、申し訳ありません。麓のほうでは吹雪がひどく今はとても山に登れる状態ではないのです』
「なんだと! それでは我らはどうすればいいのだ」
『明日には止むと言っています。明日までどうかお待ちくださ…』
 吹雪いているというのは本当らしく、携帯は奇妙な雑音が入ったかと思うと切れた。
「くそ! このままここで一夜を明かせと言うのか」
 そのころコテージ内をもう一度探索していた夏侯惇が戻ってきた。
「燃料はある、食料も水もある。一晩くらいなんとかなるだろう…」
 だがさすがに実験的に建てただけあって、自家発電用の機械が壊れた。
 それに悪態をつくまもなくコテージのあたりも吹雪き始めてきた。
 ふたりは暖炉に薪をくべロウソクの明かりの下、貯蔵庫にあったハムとチーズでサンドイッチを
作って簡単に夕食を済ませた。
 一番ありがたかったのは、だれかがワインを置いていったことだろうか。
 暖炉がどんなに燃え盛っていてもコテージ中の電源が落ちると、心細さも手伝ってなんだか
しんしんと冷えてくる。
 寝室から持ち出した毛布に包まりながらワインを酌み交わした。
 まだ宵の口だというのになにも娯楽はなく、懸命に話題を探したがやがてふたりはどちらから
ともなく押し黙った。
 ロウソクの明かりに薪のはぜる音…ムーディなといえば聞こえはいいが男ふたりではロマンスも
生まれない。
「荀ケは…」
 沈黙に耐えかねたように曹操が口を開いた。
「本当に明日くるだろうか?」
 いつもの強気はどこへいったのか、ひどくせつなそうな目をする。
「当たり前だろう。信じなくてどうする」
 曹操をここまで弱気にするのは寒さのせいだろう。
 夏侯惇は自分の毛布を少し捲り上げ笑った。
「よければこちらへ入るか?」
 意外にも曹操は素直に夏侯惇のほうへ入ってきた。
「ひとりより…ふたりのほうが暖かいな。こんな温もりの中にいると…お前とならここで果てても
いいような気になる」
「バカを言え。お前をこんなところで死なせてなるものか」
 夏侯惇は曹操の頭をそっと支え自分の肩にもたれさせた。
 パチンと薪のはぜる音に曹操が一瞬身体をこわばらせ夏侯惇を見上げる。
 その目があまりにも情けないので…なにかを求めるように訴えているので…思わず唇を重ねていた。
 舌を絡め深く口づけても曹操は拒まない。
「元譲…」
 長い口づけから唇を離した曹操はそのまま夏侯惇の胸に顔を埋めた。
「眠るぞ…お前の温もりの中で眠りたい…」
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