その日の午後、夏侯惇は曹操の印をもらおうと社長室を訪れた。
 秘書の郭嘉が休んでいるのを知っていたので、軽くノックをし返事を待たずにドアを開ける。
「孟徳」
 しかし曹操の返事はなく、社長室には息子の曹丕と曹植がいた。
「わ、わわっ、元譲叔父上」
「なんだお前たち。ここでなにをしている。孟徳はどうした?」
 なにかを隠そうとするふたりを押しのけ、机のほうをのぞけばそこに曹操はいなかった。
 だがなんらかの気配を感じ、机の下に目をやれば曹操が座り込んでいた。
 かなりおかしな格好で…。
「も、孟徳、なんという格好をしている!」
 曹操はイヌのようにきちんと座っていた。
「あ、あの叔父上、これはですね…」
 すぐにこのいたずら好きのふたりが、なにかやらかしたのだと直感する。
「お前たち、孟徳になにをしたのだ!」
「あ、あの…教授に教わった催眠術を試してみたくて、父上にイヌになる暗示をかけたら…
こうなっちゃったんです」
「この大馬鹿者! すぐに元に戻さんか!」
「それがその…」
 曹丕は消え入りそうな声で白状した。
「術の解き方を忘れちゃって…」
「なんだとー!」
「教授に電話したんですけど、出張してて真夜中じゃないと戻らないんです」
 今にも泣き出しそうな顔、いや少ししゃくりあげながら曹丕と曹植はうなだれる。
 催眠が解けないのではどうしようもない。
 夏侯惇はこのいたずらな甥っ子どもをそれ以上叱る気になれなかった。
「とにかく! 孟徳は私が管理する。お前たちはその教授に連絡がつき次第、孟徳の催眠を解くのだ、
わかったな!」
 うなだれるふたりを社長室から追い出し、受付に連絡して今日の取次ぎを一切断らせるよう命じた。
 幸いにして最上階の社長室は、エレベーターを操作すればだれもこないようにはできる。
 夏侯惇は自分の仕事を早々と済ませ、自分への取次ぎも断らせて社長室に戻ってきた。
 夕方になったが曹丕からの連絡はない。
「孟徳、お前の息子はしょうがないやつらだな」
 曹操に話しかけても曹操はきちんとお座りした状態のまま、不思議そうな目で夏侯惇を見るだけ
だった。
「それにしても…お前がイヌとはな」
 自宅でも大型犬を飼っているせいか、ついいつもの癖で頭を撫でてやる。
 すると曹操は目を輝かせて夏侯惇に飛びついてきた。
「のわあっ!」
 全体重でのしかかられ思わず夏侯惇は仰向けにひっくり返る。
 曹操はその上に乗っかり夏侯惇の顔をペロペロと舐めた。
「やめろ…こら孟徳、やめんかっ!」
 声を荒げてもそれが唯一の愛情表現である曹操はやめようとしない。
 夏侯惇は曹操の頭を押さえると、しばらくその目をのぞき込みおもむろに口づけた。
「まったく…そんなことをされると愛しくなる…」

 社長室に敷かれた毛足の長いカーペットの上で、夏侯惇は裸にした曹操の背中を撫でながらその肌の
感触を楽しんでいた。
 曹操は組んだ手の上に頭を乗せて気持ちよさそうに目を細めている。
「お前が本物のイヌだったら…私のものにして、だれにも触れさせないのだがな…」
 そんなことをつぶやきながら、自分のベルトを抜きそれを曹操の首に絡めてみる。
 曹操はそれをいやがりもせずに受け入れていた。
 大分余ったベルとの端を軽く引くと、曹操はそれに合わせて身体を動かす。
 夏侯惇はベルトで曹操の頭を自分の股間に引き寄せた。
 曹操は少し夏侯惇を見上げただけで、すぐに自分の目の前にある男根を突き出した舌で舐め始めた。
「頼むから噛まんでくれよ」
 冗談交じりにそう言って、曹操の褐色の乳首をつねり上げた。
「はふ…っ」
 本物のイヌの顔と違い、表情がわかる。
 乳首を愛撫されて、曹操の顔はいつしか恍惚とした表情になっていた。
「そうか、感じるか…」
 夏侯惇は唇の端を歪めると身体の位置をずらし、曹操の男根に触れた。
「くぅ…ん」
 喉の奥からしぼり出すような弱々しい声がする。
 男根への愛撫を続けながら、夏侯惇は自分の唾液を曹操の菊門に塗りつけた。
「イヌになっても…お前を欲しくなる気持ちは変わらんな」
 小さく苦笑していきり立った男根を菊門にあてがい、静かに挿入していく。
「あ…ああーっ!」
 思わず上がった曹操の声は、もうイヌのようなそれではなく曹操のものになっていた。
 菊門を犯しているのがだれかというように振り向く。
「げ…んじょう…っ」
「おう孟徳、元のお前に戻ったか」
「わ、私はどうしてこんな…あうっ!」
「説明はあとでしてやる。今は…おとなしくよがっていろ」
 夏侯惇なら疑うことはなにもない…曹操は目を閉じて快感に酔った。

 情事を終えて、カーペットの上に寝転んだ曹操は、夏侯惇からすべてのいきさつを聞いて眉を
ひそめた。
「まったく…なにを考えておるのだ、あいつらは。きついお灸を据えてやらねばならんな」
「だが実験台にしたのがお前でよかった。ほかの社員なら社内で大騒ぎになるところだったぞ」
「ひどいことを…」
 曹操は苦笑しながら身体を起こし、夏侯惇を見下ろした。
 そうしてまだ首にかかっているベルトを軽く引っ張る。
「これはお前のか?」
「ああ、そうだ。お前があまりかわいいからつけた」
 夏侯惇が淡々と答える。曹操は笑って夏侯惇に口づけた。
「イヌ呼ばわりは心外だが…私はお前のものだろう」
 夏侯惇は口づけを返しながらニヤリと笑った。
「たまには、だれが主人か教えてやろうと思ってな」
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