ウサギの曹操と一番の仲良しはオオカミの夏侯惇。そして二番目はトラの許チョです。
 だって許チョは大きいし、優しいし、強いし。曹操を背中に乗せてお散歩するとみんながよけて
くれるので、曹操は許チョが大好きです。
 今日も曹操は許チョの背中に乗って森の中をお散歩中です。
「ねえ、どうしてみんな許チョのことをコチって呼ぶの?」
 本当はすごく強いトラなのに、エサをとるときや曹操を守るとき以外はぼーっとしているので、
森のみんなは許チョのことを虎痴と呼ぶのです。
「ふーん。じゃあこれから孟徳も許チョのこと、コチって呼んでいい?」
 許チョは笑ってうなずいただけでした。
 ずいぶん遠くまできたような気がします。
「曹操さまぁ、お腹すいてないかぁ」
 そう言えばちょっとお腹がへったような…許チョは曹操を木の若芽がたくさん出ているところへ
連れてきました。
「ここは、倒れた木が腐ったあとに芽吹いたんだぁ。ここでゆっくり食べてるといいよぉ。オイラも
ちょっと腹がへったからエサを食べてくるよ…どこへもいっちゃダメだぞぉ」
 そうしてのっしのっしと歩いていく許チョの姿が見えなくなってから、曹操は柔らかい草や木の
若芽を食べていました。そのとき倒れて腐った木に見覚えのある傷を見つけました。
「あれ? これ…」
 これは確か春になって間もないころ、ヘラジカの馬騰がこのあたりの木をなぎ倒したときについた傷です。
「思い出したか」
「だ、だれだっ!」
 低い声に振り向くととても怖い顔をしたヘラジカが立っていました。いえ、ヘラジカよりも鋭い角を
持っているようです。
「お前が曹操か」
「そ、それがどうした」
 怖いです。でも曹操は王さまだからがんばらないといけないんです。
「俺は貴様に一族を殺された馬騰の息子、馬超だ。ウサギとは聞いていたが、もっと獰猛かと思った…」
「孟徳は強いんだぞ。お前なんかに負けないからなっ」
「ふん…威勢だけはいいな」
 あっと思ったときにはもう、曹操は馬超に押さえつけられていました。
「は、離せ、離せえっ!」
「踏みつぶしても、突き上げても一瞬だな…少し楽しませてもらうか」
 曹操の柔らかな尻尾が踏まれます。
「わああん、だれかぁ!」
 足を折った馬超が曹操の上にのしかかりました。曹操のお尻に熱いものが当たっています。夏侯惇のより
ずっと大きいような気がします。
「やだ…やだぁ!」
「苦しめ」
 大きな大きな塊が曹操のお腹にズズッと入ってきました。
「わああっ!」
 身体がふたつに裂けそうです。いえ、本当に裂けたかもしれません。お尻がズキズキと痛み涙が
ポロポロこぼれます。
「うえっ…えぐっ…」
「このまま俺の体重で押しつぶしてくれる」
 痛いです、重いです。曹操の気が遠くなっていきます。
 そのとき
「こらぁ! 曹操さまになにしてるんだぁ!」
 許チョの大きな声がしました。
「む、貴様が許チョか」
「よくも曹操さまにひどいことしたな…ゆるさねえぞぉ!」
「貴様に俺の、なにがわかるというのだっ!」
 馬超は曹操から立ち上がり戦闘体勢を整えます。馬超の大きなものは抜けていくときもかなりの
痛みを伴い…許チョの声に安心した曹操はそのまま気を失ってしまいました。

 どのくらい気を失っていたのでしょう…曹操が目を覚ましたとき、もう陽は暮れかけていました。
「許チョ? 許チョ、どこ?」
 まだ力の入らない身体であわてて許チョを探します。
 許チョは…傷だらけになって木にもたれていました。
「曹操さま…無事かぁ?」
 片目が腫れ上がっています。それでも許チョは無理に笑ってみせました。
「大丈夫だよ。許チョが助けてくれたからなんともないよ」
「あいつ…けっこう強かったぞぉ。オイラと互角に戦いやがった…もう逃げていっちまったけどなぁ」
 曹操は泣きながらうなずきます。
「オイラより曹操さまのほうがひどいことされたんじゃないのかぁ?」
 曹操はそっと自分のお尻に触ってみました。なんだかかさかさするのは、裂けて出た血が固まったの
でしょうか。いいえ、もっと大変なことに気づきました。
「お、おシッポ…孟徳のおシッポがぁ!」
 大事な大事な尻尾が取れてしまっています。どうやら馬超に襲われたとき取れたようです。
「よし、オイラが探してきてやる」
 許チョは身体を起こしましたが、傷だらけで満足に歩くこともできません。よろよろと立ち上がる
許チョを曹操が泣いて止めました。
「もういいよぉ。許チョだってケガしてるもん! もう動かないでよ!」
「でもぉ、曹操さまの大事な尻尾が…」
「いいよっ、もうおシッポいいからっ」
 泣いてしがみついてくる曹操を許チョは優しく抱きしめました。
「ごめんなぁ曹操さま…オイラがあいつを倒してたら…」
「いいよ…おシッポより許チョのほうが大事だよ」
 曹操はうんと背伸びをして許チョの大きな口に口づけました。あわてたのは許チョのほうです。
「そ、曹操さま。だ、ダメだぁ、そんなことしたら元譲さまに怒られちまうぞぉ」
「だって許チョのこと好きだ。それに孟徳はこんなことしかしてあげられないよ…」
 許チョにしがみついて口づけを続けていると、曹操のお腹になにか熱いものが当たりました。
「ご、ごめんよ曹操さま。お、オイラ…」
 曹操はしばらくそれを見つめ、身体を小さくするとそれにも口づけました。
「わああっ、だ、ダメだよ、曹操さまぁ」
 許チョは腰を引こうとするのですがうまく動けません。
「元譲に、教えてもらったんだ…」
 曹操は大きく口をあけて許チョのそれを頬張ろうとするのですが、大きすぎて口に入りません。
それでも舌先を突き出して丁寧に舐め始めました。
 許チョは息を弾ませながら曹操を抱き上げ、自分の膝に乗せました。曹操の後ろ足に自分のそれを
はさむようにし、両足の広がった曹操の小さなそれを大きな前足で撫でてやります。
「オイラはいいんだ…曹操さまを気持ちよくしてやるよぉ」
「えっ、だって…」
 許チョの大きな前足がちょっとずつ濡れていきます。その動きに合わせて、曹操が腰を動かすと
足のあいだにはさまれた許チョのそれもこすられて…許チョの息も弾んでいきます。
「そ、曹操さま…もうダメだぁ」
「許チョ、孟徳も…孟徳もっ」
 許チョの前足と曹操のお尻から背中にかけてが汚れるのはほとんど同時でした。

 許チョと曹操が戻ってきたのは、あたりがすっかり暗くなったころでした。
心配していたみんなは、許チョのケガと曹操のなくした尻尾に驚きます。
「曹操さま、許チョのケガは治りますが曹操さまの尻尾は…」
 銀ギツネの荀ケが申し訳なさそうに言います。でも曹操は失望も怒りもしませんでした。
「いいんだ。コチが元気になるなら曹操のおシッポはいらないよ…それに、もういばったりしない。
孟徳がいばったから許チョはケガしたんだ」
 曹操はなくした尻尾の代わりに、ちょっとだけ賢くなったようです。
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