森に秋の色が濃くなったころ、ウサギの曹操はキツネの郭嘉の姿が見えないことに気づきました。
「ねえ、郭嘉どうしたの?」
 無邪気に尋ねますが、みんななかなか教えてくれません。
 実は郭嘉は夏のあいだに病気になり、もうあまり長くないのです。みんな、曹操が郭嘉を好きだと
いうことを知っているので、曹操には言えないのでした。でも…いつまでも隠しておくことはできません。
「曹操さま、奉孝はもうすぐ旅に出ることになるので、どうかそっとしてやってください」
 銀ギツネの荀ケがそう言いました。
 そう言われてしまうと曹操はなにも言えなくなってしまいます。
「郭嘉…どこへいっちゃうの?」
「長い長い旅だそうです。思えば奉孝はこの森へきたときも、旅の途中でしたね」
「お別れしたいなぁ」
「今はできません。少し身体の具合が悪いそうですのでね」
 曹操は一生懸命考えました。
(あっ、もしかしたら郭嘉はお薬を取りに旅に出るのかもしれないぞ。孟徳がお薬を探せば郭嘉は
出かけなくてすむかも)
 そう思いついた曹操は、自分だけが知っている場所へ薬草を取りに出かけました。

 そこは森のもっと奥、曹操の土地ではない場所です。だれかを連れていくと秘密の場所を知られて
しまうのでひとりできました。ほんとは心細いのですが郭嘉のためだったら怖いのだって我慢できそうです。
「えっと、ここらで見つけたんだけどな…」
「なにを探しているんです?」
「んーと、お薬の草」
 あまり夢中になっていたのでだれかがきたのもわかりませんでした。そう声をかけられて初めて顔を
上げたのです。
「だっ、だれだ?」
 そこにいたのは郭嘉と同じくらい賢そうなキツネでした。
「私は諸葛亮、あなたは曹操殿ではありませんか。こんなところでなにをしているのですか?」
「お薬の草を探してるんだ。ずっと前ここにあったのに…」
 諸葛亮はちょっと考えてから言いました。
「ああ、それなら私の巣穴にありますよ。あげましょうか?」
「えっ、ほんと?」
「ええ。今持ってきてあげますよ」
 以前夏侯惇に、だれの巣穴にもいってはいけないと言われていたのでちょっと心配だったのですが、
持ってきてくれるというのですから大丈夫でしょう。曹操はおとなしく待っていました。
「はい、これでしょう」
 戻ってきた諸葛亮の口に、薬草が咥えられています。曹操は大喜びでそれを受け取ろうとしました。
 でも
「ねえ曹操殿、あなたは確かに偉いかもしれないけど、ふたりきりだったら私とあなた、どちらが
強いかおわかりですね?」
 曹操はウサギで諸葛亮はキツネです。襲いかかられたら曹操が食べられてしまうに決まっています。
「だっ、ダメだぞ。孟徳はこれを郭嘉に届けないといけないんだ。お前に食べられちゃうわけには
いかないぞ」
「ふふ、食べたりはしませんよ。でもお礼というのがあっても当然でしょう?」
 そう言われてみればそうです。まだ諸葛亮に「ありがとう」も言ってませんでしたし。
「あ、ご、ごめん。ありがと…」
「そんなことより…食べたりしませんからこちらへいらっしゃい」
 なんだか諸葛亮の目が怖いです。曹操が立ちすくんでいると諸葛亮のほうが近づいてきました。
「噂通りかわいらしい方ですね」
「か、かわいいって言うなっ」
 赤くなって反論するより先、諸葛亮に抱きすくめられていました。
「本当に、食べてしまいたいほどかわいい…」
 諸葛亮の長い舌が曹操のほっぺを舐めます。前足が曹操のお腹やお尻を撫でまわします。
「や、やだ…」
「じっとしていらっしゃい…すぐいい気持ちにしてあげますからね」
 なんだか頭がぼうっとしていきます。いつのまにか諸葛亮が曹操の上に乗っかっていました。
「やだ、熱い…お尻が熱いよ」
 なにか熱いものがお尻に当たっています。やがてそれはズズッと曹操のお腹の中に入ってきました。
「あっ、あーっ!」
 曹操の長い耳に諸葛亮の熱い息がかかります。諸葛亮の手が前に回されて、曹操の小さな男根を
撫でました。弄ばれると曹操のお尻がきつく締まるからです。
「お礼はこれだけでけっこうですよ…」
「んうっ…あっあっ…」
 曹操の男根から熱いものが迸ります。それとほとんど同時に身体中の力が抜けて気が遠くなって
いきました。
 ぐったりとなった曹操をそっと草の上に寝かせ、諸葛亮は静かにその場を去りました。
「先日劉備さまから軍師になれと要請がきましたが、あなたの取り巻きを排除して、あなたを手に
入れられるのなら請けてもいいですね…」
 そんなことをつぶやきながら。

 曹操が目を開けたとき、あたりはもう暗くなっていました。近くにはちゃんと薬草も置かれています。
「は、早く郭嘉にお薬持っていかなきゃ…」
 まだお尻がズキズキしますが一生懸命走って郭嘉の巣穴のほうへいきました。そこにはなぜかみんなが
集まっていました。
「ねえ郭嘉どこ? 孟徳、お薬の草持ってきたんだ。そしたら郭嘉はもう旅に出なくていいんだろう?」
「孟徳、郭嘉は…」
 そう言いかけたオオカミの夏侯惇を荀ケが手で制しました。
「曹操さま、残念ですが奉孝はついさっき旅立ってしまいました。曹操さまにくれぐれもよろしくと
言っていましたよ」
 曹操はしばらく手の中の薬草を見つめていましたが、いきなりそれを地面に叩きつけました。
「諸葛亮のせいだっ! せっかくお薬とってきたのに、あいつのせいで遅くなっちゃったから…郭嘉が
いっちゃったじゃないかっ! 孟徳、お別れも言えなかったんだぞっ!」
 なにも知らずにくやしがる曹操を見ながら、荀ケや夏侯惇は浮かんだ涙をそっと隠しました。

 数日後、曹操はトラの許チョの背中に乗って散歩に出かけました。
 暖かい秋の木漏れ日の中で、許チョに尋ねます。
「ねえコチ」
「なんだぁ?」
「コチは郭嘉がどこへいったか知ってる?」
 許チョは一瞬真面目な顔になって足を止めましたが、すぐにいつものようなニコニコ笑いを浮かべて
答えてやりました。
「ずっとずっと遠いところだなぁ。もう帰ってこれないほど遠くだぁ。曹操さまもおっきくなったら
わかるよぉ」
「ふうん」
 曹操の小さな胸がキュウッと痛くなりました。でも…郭嘉が決めたことだからしかたありません。
 曹操は許チョの大きな背中に視線を落として小さくつぶやきました。
「ばいばい、郭嘉」
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